地震が発生したとき、家族全員が自宅にいるとは限りません。また、全員がそろっていても、その場で何をすべきか相談している余裕がない場合があります。
災害時に慌てないためには、持ち出し品を準備するだけでなく、平常時の備えや避難時の行動を家族で話し合っておくことが大切です。
ただし、役割を果たすために危険な行動を取ってはいけません。大きな揺れを感じたときは、火元の確認や家族の救助へすぐに向かうのではなく、まず各自が頭を守り、安全な場所で身を守ります。
揺れが収まってから周囲の状況を確認し、安全に行動できる場合に限って、決めておいた役割を実行しましょう。
この記事では、地震に備えて家族で決めておきたい役割を、平常時、地震発生直後、避難時、避難後の場面に分けて解説します。
家族の役割分担は災害が起きる前に決めておく
地震が起きてから、水や非常食の場所、避難先、子どもの迎え、ペットの避難方法などを相談していると、行動が遅れる可能性があります。
家族の役割分担を事前に決めておく目的は、全員の行動を細かく固定することではありません。災害時に必要な作業を洗い出し、誰が対応できるかを確認しておくことです。
家族で話し合いたい主な内容は次のとおりです。
- 防災用品を購入・管理する人
- 水や食料の期限を確認する人
- ハザードマップや避難先を確認する人
- 地震後に家族の安否を確認する人
- 子どもを迎えに行く人
- 高齢者や要支援者を支援する人
- ペットを避難させる人
- 非常用持ち出し袋を持つ人
- 避難前に電気や火元を確認する人
- 避難先や移動先を記録する人
家庭によって、家族の人数、年齢、勤務先、通学先、健康状態は異なります。一般的な役割をそのまま当てはめるのではなく、普段の生活をもとに決めることが大切です。
役割分担の前に確認したい基本ルール
役割を決めるときは、全員が守る共通ルールも確認しておきましょう。
地震発生直後は自分の安全を最優先にする
強い揺れを感じたら、まず低い姿勢を取り、机の下など落下物から身を守れる場所へ移動します。
家族を助けようとして別の部屋へ走ったり、揺れている最中に火を消しに行ったりすると、自分もけがをする可能性があります。
次の行動を基本として共有しておきましょう。
- 頭を守る
- 丈夫な机の下などで身を守る
- 倒れそうな家具や窓から離れる
- 慌てて屋外へ飛び出さない
- 揺れている最中に無理に火を消さない
- エレベーターを使わない
誰かを支援する役割がある人も、まず自分の安全を確保することが重要です。
役割を果たせない場合も想定する
災害時には、担当者が外出していたり、けがをしたりして、予定していた役割を実行できないことがあります。
そのため、一つの役割につき、主担当と代わりに対応する人を決めておくと安心です。
例えば、次のように決めます。
| 役割 | 主担当 | 代わりに対応する人 |
|---|---|---|
| 子どもの引き取り | 母 | 父、祖父母 |
| ペットの避難 | 父 | 高校生の子ども |
| 持ち出し袋の運搬 | 父 | 母 |
| 高齢者の支援 | 母 | 近隣の親族 |
| 安否情報の登録 | 母 | 父 |
小さな子どもや支援が必要な家族には、責任の重い役割を割り当てず、本人が安全にできる行動を決めておきましょう。
状況によって役割を変更する
決めておいた役割が、必ずしも災害時に実行できるとは限りません。
津波警報が出ている場合は、戸締まりや荷物の回収よりも、すぐに高い場所へ避難する必要があります。火災や建物の損傷があるときも、自宅内の確認を続けず避難を優先します。
役割分担は行動を遅らせるものではなく、安全な避難を助けるためのものです。
平常時に分担しておきたい役割
災害への備えは、一人だけで管理すると負担が集中し、点検や買い足しを忘れやすくなります。
平常時から家族で役割を分けておくと、防災用品や避難計画を維持しやすくなります。
水・食料・日用品の管理
備蓄品を管理する担当者は、家族の人数に合った量があるか、期限が切れていないかを確認します。
主な確認項目は次のとおりです。
- 飲料水
- 非常食
- 携帯トイレ
- 乾電池
- カセットボンベ
- 衛生用品
- 救急用品
- ペット用品
- 乳幼児用品
- 介護用品
すべてを一人で確認する必要はありません。例えば、食料は普段買い物をする人、薬は本人、ペット用品は世話を担当している人が管理すると分担しやすくなります。
点検日は、春と秋、家族の誕生日、防災の日など、覚えやすい時期に設定しましょう。
防災持ち出し袋の管理
防災持ち出し袋は、家族一人につき一つを基本として、本人に必要なものを入れます。
担当者は、次の項目を確認してください。
- 本人が背負える重さか
- 飲料水や食品の期限が切れていないか
- ライトやラジオが作動するか
- モバイルバッテリーが充電されているか
- 衣類のサイズや季節が合っているか
- 常備薬やお薬手帳の情報が新しいか
- 家族の連絡先が変わっていないか
子どもや高齢者の袋は、家族が一緒に確認します。持てないほど重い場合は、健康な大人の袋へ分けるか、自宅備蓄へ移しましょう。
避難先・避難経路の確認
ハザードマップや自治体の情報を確認する担当者を決め、次の内容を家族へ共有します。
- 指定緊急避難場所
- 指定避難所
- 津波避難場所
- 洪水や土砂災害の危険区域
- 自宅から避難先までの経路
- 学校や職場からの避難先
- 通行できなくなる可能性がある道
- 第1・第2集合場所
確認した人だけが知っている状態では役に立ちません。地図を印刷して玄関などへ保管し、家族で実際に歩いて確認しましょう。
家具固定・住宅内の安全確認
家具や家電の転倒を防ぐ担当者は、寝室、リビング、台所、子ども部屋などを確認します。
- 背の高い家具が固定されているか
- 寝ている場所へ家具が倒れてこないか
- 出入口を家具がふさがないか
- 重いものを高い位置に置いていないか
- 窓ガラスの近くに寝る場所がないか
- 廊下や玄関に避難を妨げる物がないか
- ライトや靴を取り出しやすい場所に置いているか
家具の配置や子どもの成長によって危険な場所は変わります。模様替えや引っ越しの際にも見直してください。
連絡方法と家族防災カードの管理
災害用伝言ダイヤル「171」、web171、SMS、遠方の親族など、複数の安否確認手段を決めます。
担当者は、家族防災カードに次の情報を記載し、定期的に更新しましょう。
- 家族の氏名と電話番号
- 勤務先や学校
- 遠方の連絡先
- 第1・第2集合場所
- 171で使う電話番号
- 持病やアレルギー
- 服用薬
- かかりつけ医
- 子どもの引き取り担当者
カードは、防災持ち出し袋、財布、通学かばんなどに入れておきます。
地震発生直後に行う役割
地震発生直後は、決めた役割をすぐに始めるのではなく、強い揺れが収まるのを待ちます。
家族全員の安全を確認し、建物や周囲に危険がない場合に行動してください。
家族の安否とけがの確認
最初に、同じ場所にいる家族の安否を確認します。
- 声をかけて返事があるか確認する
- 出血や骨折などのけががないか確認する
- 倒れた家具に挟まれていないか確認する
- 靴やスリッパを履いてから移動する
- ガラス片や落下物に注意する
けが人がいる場合は、救急用品を使用し、必要に応じて消防や医療機関からの案内に従います。
倒壊した家具などに挟まれた人を一人で無理に動かすと、けがを悪化させる可能性があります。周囲へ助けを求め、安全を確認しながら対応してください。
火災や危険箇所の確認
揺れが収まった後、安全に確認できる範囲で、火災やガス臭などの異常がないか確認します。
主な確認項目は次のとおりです。
- 火災が発生していないか
- ガスのにおいがしないか
- 電気製品が倒れていないか
- 壁や柱に大きな損傷がないか
- 窓ガラスが割れていないか
- 玄関や避難口を開けられるか
火災やガス漏れのおそれがある場合は、荷物を集めることに時間をかけず、安全な場所へ移動します。
正しい情報の確認
情報収集の担当者は、テレビ、ラジオ、自治体の防災情報、気象庁などから情報を確認します。
SNSには未確認の情報や古い情報が広がる場合があります。投稿一つだけを根拠にせず、公的機関の情報と照らし合わせましょう。
確認したい主な情報は次のとおりです。
- 地震の震源や震度
- 津波警報・注意報
- 避難情報
- 火災や道路の被害
- 避難所の開設状況
- 水道、電気、ガスの状況
- 鉄道や道路の状況
スマートフォンのバッテリーを消耗しすぎないよう、家族全員が別々に情報を探すのではなく、一人が確認して共有する方法もあります。
避難時に分担したい役割
自宅に火災、倒壊、津波、浸水などの危険がある場合は、安全な場所へ避難します。
避難時の役割は、荷物を運ぶ人だけでなく、支援が必要な家族やペットへの対応も含めて考えましょう。
非常用持ち出し袋を運ぶ
誰がどの袋を持つか、あらかじめ決めておきます。
一人の袋に全員分の用品をまとめると、その人が持ち出せない場合にすべて失う可能性があります。できるだけ一人一袋とし、本人が持てない用品は複数の大人に分散してください。
避難時には両手を使えるよう、リュックサックを使用します。手提げ袋やキャリーケースは、階段や荒れた道路で移動しにくい場合があります。
子どもの安全を確保する
乳幼児がいる家庭では、誰が抱っこするか、誰が荷物を持つかを決めておきます。
一人が子どもと重い荷物の両方を担当すると、避難が難しくなることがあります。
- 乳幼児を抱っこする人
- 子どもの防災用品を持つ人
- きょうだいの手を引く人
- 学校や保育施設へ迎えに行く人
- 保護者が不在の場合の代理人
子どもが学校や保育施設にいる場合は、施設の引き渡しルールを優先します。連絡が取れないからといって、子どもが一人で帰宅しないよう普段から伝えておきましょう。
高齢者や要支援者を支援する
高齢者、障害のある人、妊婦、持病がある人など、避難に支援が必要な家族がいる場合は、具体的な方法を決めておきます。
- 誰が付き添うか
- 常備薬を誰が持つか
- 杖や歩行器をどこに置くか
- 車いすで通れる避難経路か
- 階段を使う場合はどうするか
- 近隣へ協力を依頼するか
- 避難行動要支援者制度の対象になるか
一人の家族だけでは支援が難しいこともあります。本人の同意を得たうえで、近隣住民、親族、自治体などへ事前に相談しておきましょう。
ただし、支援する人自身が危険になる状況では、無理な救助を行わず、消防などへ助けを求めます。
ペットを避難させる
ペットがいる家庭では、誰がペットをキャリーケースへ入れ、誰がフードや水を持つかを決めます。
準備しておきたいものは次のとおりです。
- キャリーケースやケージ
- 首輪、ハーネス、リード
- フードと水
- 常備薬
- ペットシーツ
- 排泄物処理用品
- 飼い主とペットの写真
- ワクチン接種などの記録
地震が起きてから初めてキャリーケースへ入れようとしても、ペットが嫌がることがあります。日頃からケースに慣れさせておきましょう。
電気・火元・戸締まりを確認する
避難前の安全確認は、時間と周囲の状況に余裕がある場合に限って行います。
- 使用中の火が消えているか
- ガス機器に異常がないか
- 電気製品のスイッチを切ったか
- 必要に応じてブレーカーを落としたか
- 窓や玄関を閉めたか
- 避難先を知らせるメモを残すか
津波や火災など、すぐに避難しなければならない場合は、これらの作業をせず命を守る行動を優先してください。
また、ガス臭がするときは、電気のスイッチやブレーカーを操作すると火花が発生する可能性があります。火気や電気機器に触れず、その場から離れて関係機関へ連絡します。
避難先を記録する
家族が別々に避難する可能性があるため、避難先を知らせる担当も決めておきます。
- 171やweb171へ登録する
- 家族へ短いメッセージを送る
- 遠方の親族へ連絡する
- 避難先の伝言板を利用する
- 自宅にメモを残す
自宅へメモを残す場合は、防犯のため、家族全員の個人情報や長期間不在であることを詳しく書かないよう注意しましょう。
避難後に分担したい役割
避難場所へ到着した後も、安否確認、健康管理、情報収集などが必要です。
家族の安否情報をまとめる
家族が別々の場所にいる場合は、代表者が情報をまとめます。
次の内容を記録すると状況を把握しやすくなります。
- 無事かどうか
- けがの有無
- 現在地
- 誰と一緒にいるか
- 次に移動する予定
- 連絡を確認する時刻
連絡がつかない家族を探すため、危険な場所へ無理に戻ってはいけません。本人が職場や学校など安全な場所で待機している可能性もあります。
水・食料・薬を管理する
避難生活が長引く場合は、水や食料を一度に使いすぎないよう管理します。
常備薬が必要な人、乳幼児、高齢者、食物アレルギーがある人などを優先し、必要なものを確認してください。
ただし、水分や食事を極端に制限すると体調を崩す可能性があります。避難所の担当者や医療スタッフへ相談しながら対応しましょう。
家族の体調を確認する
避難生活では、けがだけでなく、疲労、脱水、持病の悪化、感染症などにも注意が必要です。
家族同士で、次の変化がないか確認します。
- 発熱やせき
- 頭痛や吐き気
- 強い疲労
- 水分不足
- 食欲低下
- 薬の不足
- 不眠や強い不安
- 子どもの様子の変化
- 高齢者の意識や歩行状態の変化
体調に異変がある場合は、我慢せず避難所の担当者や医療スタッフへ伝えてください。
情報収集と家族への共有
避難所や自治体から発表される情報を確認し、家族へ共有します。
- 余震や津波に関する情報
- 給水や物資配布の時間
- トイレや衛生設備の使用方法
- 電気、水道、ガスの復旧状況
- 自宅へ戻れる条件
- 医療や福祉の相談窓口
- ペットの受け入れ場所
うわさや出所が不明な情報を広めず、自治体や施設管理者などの案内を確認しましょう。
家族構成別の役割分担例
役割分担に決まった正解はありません。以下は一例として、家庭の状況に合わせて調整してください。
大人2人と子ども2人の家庭
| 家族 | 平常時 | 避難時 |
| 大人A | 水・食料の管理、避難先の確認 | 子どもの安全確保 |
| 大人B | 持ち出し袋、家具固定の確認 | 荷物の運搬、安全確認 |
| 子どもA | 自分の袋と連絡カードの確認 | 大人から離れず避難 |
| 子どもB | ライトや靴の場所を覚える | 大人の指示に従う |
子どもには、「自分の身を守る」「大人から離れない」「学校では先生の指示に従う」など、年齢に合った役割を伝えます。
高齢者と同居している家庭
| 家族 | 平常時 | 避難時 |
| 大人A | 水・食料・介護用品の管理 | 高齢者への付き添い |
| 大人B | 避難経路、持ち出し袋の管理 | 荷物と安全確認 |
| 高齢者 | 薬や補聴器の確認 | 自分用の軽い袋を持つ |
高齢者の体力や健康状態によっては、家族だけでの避難が難しい場合があります。自治体や地域の支援制度についても確認しておきましょう。
ペットがいる家庭
| 家族 | 平常時 | 避難時 |
| 大人A | 人用の備蓄管理 | 子どもや要支援者の対応 |
| 大人B | ペット用品の管理 | ペットをキャリーへ入れる |
| 子ども | ペットの写真やカードを確認 | 自分の袋を持ち大人に従う |
ペットを連れて避難できる施設や、避難所での飼育場所も事前に確認してください。
家族の役割分担チェックリスト
家族会議では、次の項目を一つずつ確認しましょう。
平常時の備え
- 水と食料を管理する人
- 防災持ち出し袋を点検する人
- 常備薬や医療情報を管理する人
- 家具固定を確認する人
- ハザードマップを確認する人
- 家族防災カードを更新する人
- ペット用品を管理する人
- 点検日を記録する人
地震発生直後
- まず各自が身を守る
- 揺れている最中に無理に移動しない
- 家族の安否とけがを確認する
- 火災や建物の損傷を確認する
- 公的機関から情報を得る
- 避難が必要か判断する
避難時
- 子どもを保護する人
- 高齢者や要支援者に付き添う人
- ペットを避難させる人
- 持ち出し袋を運ぶ人
- 安全な場合に火元や電気を確認する人
- 避難先を家族へ知らせる人
避難後
- 家族の安否をまとめる人
- 水・食料・薬を管理する人
- 情報を確認する人
- 家族の体調を確認する人
- 自宅の状況や帰宅時期を確認する人
担当者が不在の場合も想定し、代わりに行う人まで決めておきましょう。
年に1回は役割分担を見直す
一度決めた役割も、家族の状況が変われば実行できなくなることがあります。
次のような変化があった場合は見直してください。
- 子どもが進学した
- 勤務先や勤務時間が変わった
- 家族が増えた
- 高齢者の体力が低下した
- 持病や服用薬が変わった
- ペットを飼い始めた
- 引っ越した
- 避難所や避難経路が変わった
少なくとも年に1回は家族で話し合い、担当、連絡先、避難先、防災用品を更新しましょう。
話し合うだけでなく、防災持ち出し袋を背負い、避難経路を実際に歩くことも大切です。担当者が本当に荷物を持てるか、子どもや高齢者と一緒に移動できるかを確認できます。
まとめ
地震に備えるための家族の役割分担は、災害時に必要な行動を整理し、誰が対応できるかを事前に確認するためのものです。
水や食料の管理、持ち出し袋の点検、避難先の確認などは、平常時から分担しておきましょう。避難時には、子ども、高齢者、要支援者、ペットへの対応や、荷物の運搬、安否情報の登録などを家族の状況に合わせて決めます。
ただし、強い揺れを感じたときは、役割よりも各自の安全確保が最優先です。揺れている最中に別の部屋へ移動したり、無理に火を消したりせず、まず身を守ってください。
担当者が不在の場合や、津波・火災などで予定どおり行動できない場合も想定し、主担当と代わりの人を決めておくことが大切です。
役割分担は一度決めて終わりではありません。家族構成や生活環境の変化に合わせて定期的に見直し、実際に避難行動を試しておきましょう。
